かみうち内科クリニック(内科・糖尿病内科)院長の神内 謙至です。
12月から1月にかけては、忘年会や新年会、親戚の集まりなど、お酒の席が続く季節です。この時期の外来では「糖尿病があってもお酒は飲んでよいのか」「宴会のときは薬をどうすればよいのか」といったご質問が増えます。
糖尿病があるからといって、すべての方が禁酒しなければならないわけではありません。病状が安定していて合併症や肝臓の病気がなく、主治医から問題ないと言われている場合には、量と飲み方に注意したうえでお酒を楽しむことは可能です。
ただし、お酒は血糖値を上げる方向と下げる方向の両方に作用します。特にインスリンや一部の飲み薬を使っている方では、飲酒後に低血糖が起こることがあり、しかもその症状が「酔い」と区別しにくいという問題があります。本稿では、お酒と血糖値の関係を整理したうえで、宴席が続くこの時期に注意していただきたい点について解説します。
お酒は血糖値を「上げる」作用と「下げる」作用の両方を持つ
糖質による血糖値の上昇は、わかりやすい作用です。ビールや日本酒、梅酒、甘いカクテルなどには糖質が含まれており、飲むと血糖値が上がります。また、お酒が入ると食欲が増し、揚げ物や締めのご飯・麺類まで食べてしまうことも、食後の血糖値を押し上げる原因になります。
アルコールそのものによる血糖値の低下は、あまり知られていない作用です。私たちの体は、食事をとっていない時間帯にも、肝臓がブドウ糖を作り出したり(糖新生)、蓄えていたグリコーゲンを分解したりすることで血糖値を保っています。ところがアルコールを分解している間、肝臓のこの働きが抑えられます。その結果、飲酒の数時間後から翌朝にかけて血糖値が下がりやすくなります。
このように、お酒の影響は「飲んだ直後は上がり、時間がたってから下がる」という形をとることがあります。飲んだ直後の血糖値だけを見て安心できないのは、このためです。
宴席で特に注意したい「遅れて起こる低血糖」
飲酒に伴う低血糖で問題になるのは、飲み終わってから時間がたって起こり、長引きやすい低血糖です。空腹のまま飲んだとき、食事量が少なかったとき、夜遅くまで飲んでそのまま寝てしまったときに起こりやすく、睡眠中に気づかないまま進行することがあります。
このリスクが特に高いのは、インスリン注射を使っている方と、低血糖を起こしうる飲み薬であるスルホニル尿素薬やグリニド薬を使っている方です。これらの薬は、それ自体に血糖を下げる作用があります。そこにアルコールによる糖新生の抑制が加わると、低血糖が深く、長く続きやすくなります。
一方、これらの薬を使っていない方では、飲酒による重い低血糖のリスクは相対的に低いと考えられます。ご自身が使っている薬がどの種類にあたるのか、一度確認しておくと安心です。低血糖の基本的な知識については、別の記事で解説しています。
低血糖と「酔い」は見分けにくい
低血糖では、冷や汗、手の震え、動悸、強い空腹感が出たあと、進行するとぼんやりする、ろれつが回らない、ふらつくといった症状が現れます。これらは酔っているときの様子とよく似ています。そのため、本人も周囲も「飲みすぎただけ」と考えてしまい、対処が遅れることがあります。
インスリンや低血糖を起こしうる薬を使っている方は、親しい同僚やご家族には「様子がおかしければ低血糖の可能性がある」と伝えておくことをお勧めします。低血糖時の具体的な対処については、こちらの記事も参考にしてください。自分で対応できるなら席にある炭水化物系食品をとっておく、オレンジジュースなどを注文し、飲むようにしてください。
持続グルコース測定(CGM:皮膚に貼ったセンサーで血糖の変動を連続的に記録する機器)を使っている方は、飲酒した夜から翌朝にかけてのグラフを確認しておくと、ご自身のお酒の影響を把握しやすくなります。当院ではフリースタイルリブレやDexcom G7の導入・運用にも対応しています。
【注意点】飲んでいる薬によって注意点が変わります
低血糖以外にも、薬の種類によって飲酒時に気をつけたい点があります。
SGLT2阻害薬を飲んでいる方は、尿量が増えることで体の水分が失われやすくなっています。お酒にも利尿作用があるため、脱水が進みやすくなります。また、飲酒に加えて食事量が極端に少ない状態が続くと、まれにケトアシドーシスという重い状態を招くことがあります。宴席では水もあわせて飲み、翌日に強いだるさや吐き気、腹痛があれば早めに医療機関に連絡してください。
メトホルミンを飲んでいる方は、多量の飲酒により乳酸アシドーシスという副作用のリスクが高まることが知られています。適量を超える飲酒は避けるのが無難でしょう。
1型糖尿病でインスリン治療をしている方は、お酒に含まれる糖質やつまみに合わせて食事のインスリンを打つ一方で、夜間から翌朝の低血糖にも備える必要があります。飲酒した日の就寝前の血糖値は、普段より少し高めでも慌てて追加のインスリンを打たないなど、ご自身に合った調整方法を主治医と事前に相談しておくことが望まれます。インスリンの種類ごとの特徴は、こちらで解説しています。
お酒の種類による糖質の違いと「適量」の目安
お酒に含まれる糖質の量は、種類によって大きく異なります。
糖質を比較的多く含むお酒は、ビール、日本酒、紹興酒、梅酒、甘いカクテルや果実系のチューハイなどです。醸造酒や甘味を加えたお酒に多い傾向があります。
糖質をほとんど含まないお酒は、焼酎、ウイスキー、ブランデーなどの蒸留酒です。
血糖値の上がり方だけを考えると、蒸留酒のほうが穏やかです。ただし、「糖質ゼロ」「糖質オフ」のお酒であっても、アルコール自体にはカロリーがあります。飲む量が増えれば体重や中性脂肪、肝臓への負担は増えますし、前述の低血糖のリスクも量に応じて高まります。「糖質ゼロだから多めに飲んでも大丈夫」とは考えないでください。
量の目安としては、厚生労働省が示す「節度ある適度な飲酒」として、1日あたり純アルコール約20g程度とされています。純アルコール20gは、おおよそ次の量に相当します。
● 日本酒(15%):1合(180ml)
● ビール(5%):中瓶1本(500ml)
● 焼酎(25%):約100ml
● ワイン(12%):グラス2杯弱(約200ml)
● 缶チューハイ(7%):350ml缶1本
厚生労働省が2024年に公表した「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」では、1日あたりの純アルコール量が男性40g以上、女性20g以上になると、生活習慣病のリスクを高めるとされています。女性や高齢の方、体格の小さい方は、上記の目安よりも少なめが望ましいと考えられます。また、糖尿病の状態や使っている薬によっては、これより控える必要がある場合もあります。
忘年会・新年会で実践したい飲み方の工夫
当院では、食事について「何を食べてはいけないか」よりも「何を、どのように摂るか」を考えることをお勧めしています。お酒についても同じで、一律に禁止するより、付き合い方を工夫するほうが長く続けやすいと考えています。
● 空腹で飲み始めない:乾杯の前に、サラダや枝豆、豆腐料理などを少し口にしておくと、急な血糖変動や悪酔いを防ぎやすくなります。
● つまみを選ぶ:刺身、焼き鳥(塩)、冷ややっこ、野菜料理など、たんぱく質と野菜を中心に選びます。揚げ物や甘いたれの料理は量を控えめにします。
● お酒と同じ量の水を飲む:チェイサーを用意すると、飲むペースが落ち着き、脱水も防げます。
● 締めのご飯・麺類は量を調整する:締めを食べる場合は、その日の食事全体の炭水化物の量として考えます。
● 二次会・三次会は無理をしない:宴席が長くなるほど、飲酒量も食事量も把握しにくくなります。
● 宴席が続く週は休肝日を設ける:連日の飲酒は肝臓に負担をかけます。
飲み会の翌朝は、食欲がなくても朝食を抜かないようにしてください。特にインスリンや低血糖を起こしうる薬を使っている方では、前夜のアルコールの影響が残っているところに朝食を抜くと、低血糖を起こしやすくなります。
なお、健診で肝機能の異常を指摘されている方は、脂肪肝が隠れていることも少なくありません。糖尿病と脂肪肝の関係については、こちらの記事で解説しています。
お酒を控えたほうがよい方
次のような方は、飲酒を控えるか、主治医と相談のうえで避ける必要があります。
● 膵炎を起こしたことがある方
● 中性脂肪が高い方
● 肝臓の病気がある方、健診で肝機能異常を指摘されている方
● 網膜症や腎症、神経障害などの合併症が進んでいる方
● 血糖コントロールが不安定な方、低血糖を繰り返している方
以上、問題点は長々と説明しましたが…
以上、飲酒の問題点について説明をするならば、キリがありません。しかし、年末年始、友人や家族とゆっくり過ごすときにアルコールは気分も朗らかになり楽しく過ごせる、と思う人も多いでしょう。糖尿病であろうがなかろうが、無茶な飲酒がよくないことは、もはや常識となっています。そのなかで糖尿病がある場合には、以上の注意点を少し頭にとどめておき、親しい人たちとアルコールを飲みながらゆっくり楽しく過ごすことも年末年始にはいいのではないでしょうか。日常の生活に戻れば、高くなったHbA1cも元に戻ってくるでしょう。
当院では、私自身が1型糖尿病であり、糖尿病専門医も取得しております。もし他のクリニックさんで合わないと感じられた方もぜひお気軽にお越しください。
かみうち内科クリニック 院長 神内 謙至


