かみうち内科クリニック(内科・糖尿病内科)院長の神内 謙至です。
外来で糖尿病の治療をしていると、「低血糖が怖い」という声をよく耳にします。血糖値が高い状態は問題として広く知られていますが、下がりすぎることへの不安は、実際に経験すればよく分かります。冷や汗や手の震えを感じたことがある方は、その感覚を忘れにくいものです。
一方で、初めて低血糖について説明を受けた方は、「どの程度から危険なのか」「どう対処すればよいのか」がはっきりせず、漠然とした不安を抱えがちです。いざという場面で慌てないためには、あらかじめ流れを理解しておくことが大切になります。
ここでは、低血糖が起きる背景から、実際の対処法、日常生活での注意点までを、コンパクトにまとめております。
ブログでも低血糖についてはすでに解説していますので、まず概要を確認されたい方は、
低血糖について 1/2
もあわせてご参照ください。
低血糖とは何が起きている状態か
血糖値は、体にとって重要なエネルギー源であるブドウ糖の濃度を示すものです。通常は、食事によって上がった血糖をインスリンが調整し、一定の範囲に保たれています。
低血糖とは、この血糖値が必要以上に下がってしまった状態を指します。一般的には70mg/dLを下回るあたりから症状が出やすくなるとされていますが、感じ方には個人差があります。
体の中では、血糖が下がるとそれを補おうとする反応が起こります。交感神経が働き、アドレナリンなどのホルモンが分泌されることで、心拍数が上がり、発汗や手の震えといった症状が現れます。さらに血糖が低下すると、脳へのエネルギー供給が不足し、集中力の低下や意識の混濁といった状態に進むことがあります。
この段階になると、自分で対処することが難しくなる場合もあるため、早めの対応が重要になります。
どのようなときに起こりやすいか
低血糖は、特に糖尿病の治療中に起こることが多い現象です。糖尿病内服薬(スルホニル尿素薬・速効型インスリン分泌促進薬)やインスリンによって血糖を下げる働きが強く出た場合に起こります。
日常生活の中では、いくつかのきっかけが重なることで発生することがあります。例えば、食事の量が少なかった、食事の時間が遅れた、あるいは普段より運動量が多かったといった状況です。体調不良やアルコール摂取も影響することがあります。
「いつも通りにしているつもりでも、条件が少しずれると起こる」というのが低血糖の特徴でもあります。そのため、自分なりのパターンを把握しておくことが予防につながります。
低血糖のサインに気づくことが第一歩
低血糖への対応で最も大切なのは、早い段階で気づくことです。症状が軽いうちに対応できれば、重い状態に進むのを防ぐことができます。
典型的な症状としては、急な空腹感、冷や汗、手の震え、動悸などがあります。普段と違う「何となくおかしい」という感覚で気づく方もいます。こうしたサインは人によって少しずつ異なりますが、繰り返し経験する中で自分なりのパターンが見えてくることが多いものです。
ただし、長く糖尿病を患っている方の中には、こうした自覚症状が出にくくなる場合もあります。この状態では気づくのが遅れやすいため、血糖測定を併用することが重要になることもあります。
実際の低血糖時対処法
低血糖が疑われるときには、速やかにブドウ糖を補うことが基本になります。ここで重要なのは、「すぐに吸収される糖をとる」という点です。
具体的には、以下のようなものがおすすめです。
- ブドウ糖タブレット
- inゼリーエネルギー、inゼリーエネルギーブドウ糖
- グルコレスキュー
これらは体に吸収されやすく、血糖値を比較的速やかに上げることが期待できます。一般的には10〜15g程度の糖質を目安に摂取し、その後しばらく様子を見ます。
細かい特徴はこちらのページで解説しております。
注意したいのは、チョコレートやケーキのような脂質を多く含む食品です。甘い味がするため一見よさそうに思えますが、脂質が多いと吸収が遅く、低血糖時の対応としては適さないことがあります。しかし、それしかない場合には、低血糖を回復させるために脂質を多く含む食品であっても食べるようにしてください。
症状が改善したあとも、そのままにせず、状況に応じて軽い食事をとることがあります。特に次の食事まで時間がある場合は、再び血糖が下がるのを防ぐためです。
意識がもうろうとした場合の対応
低血糖が進行し、意識がはっきりしない状態になると、自分で糖分をとることが難しくなります。このような場合には、周囲の人の助けが必要になります。第三者が対応しないと回復できない低血糖を重症低血糖と呼びます。
無理に飲み物を飲ませると、誤って気道に入る危険があります。そのため、意識がはっきりしない場合は口から摂取させるのではなく、医療機関への連絡や救急対応が優先されます。ご家族や身近な方がいる場合は、こうした対応について事前に共有しておくことも大切です。
バクスミー®は、重症低血糖時に鼻に噴霧する(点鼻する)グルカゴン粉末剤です。低血糖発作時に使用する点鼻薬ですので、重症低血糖時でも周りの方が対応することができます。主治医に相談し処方してもらうとよいでしょう。
低血糖を繰り返さないために
低血糖は一度起こると不安が強く残るものです。しかし、原因を振り返ることで再発を防げる場合も少なくありません。
食事のタイミングや内容、運動量、薬の使用状況などを振り返り、「どの要因が影響したのか」を整理していくことが重要になります。場合によっては、薬の調整が必要になることもあります。
また、外出時にブドウ糖を携帯する、いつでもジュースを買えるように小銭を持ち歩くなど、いざというときに対応できる準備をしておくと安心感が変わります。小さな工夫ですが、日常生活の中での不安を軽減する助けになります。
落ち着いて対応するために
低血糖は、適切に対処すれば多くの場合回復が見込める状態です。重要なのは、早く気づき、慌てずに対応することです。
血糖値の管理は、上げすぎないことと同時に、下げすぎないことのバランスでもあります。治療を続ける中で不安を感じる場面があれば、そのままにせず、通院時に具体的な状況を伝えていただくことが大切です。個々の生活に合わせた調整を行うことで、より安全に治療を続けることが可能になります。
低血糖への理解を深めておくことは、日常生活の安心につながります。いざというときに落ち着いて対応できるよう、基本的な対処法を自分の中で整理しておくことが、長く付き合う上での支えになると感じています。
当院では、一人一人に合わせた診療内容やアドバイスを行っております。低血糖の不安が拭えない方や頻度が多くて心配な方はお気軽にお越しください。
かみうち内科クリニック 院長 神内 謙至


