糖尿病の高齢者が注意すべきこと 年齢とともに変わる「血糖管理」

かみうち内科クリニック(内科・糖尿病内科)院長 神内 謙至です。

高齢化が進むなか、高齢の糖尿病患者さんは年々増えています。当院にも、ご高齢のご本人や、親御さんの糖尿病を心配されるご家族が多く来院されます。

ここで知っておいていただきたいのは、高齢者の血糖管理は、若い頃とまったく同じ考え方では進められないということです。一方で、「もう高齢だから血糖は気にしなくてよい」という考えも、実は適切ではありません。年齢を重ねるにつれて、血糖管理の「ものさし」が変わっていくのです。

本稿では、高齢者の糖尿病に特有の注意点、年齢とともに変わる血糖コントロール目標の考え方、体調不良時の備え、そしてご家族のサポートについて解説します。

高齢者の糖尿病は何が違うのか

まず、高齢者の糖尿病が若い世代とどう異なるのかを整理します。

食後の血糖が高くなりやすい という特徴があります。加齢に伴ってインスリンの追加分泌が低下するため、食後の血糖上昇が目立つ一方、空腹時や夜間の血糖上昇は比較的軽度にとどまることが多いとされています。

高血糖の自覚症状が乏しくなります。本来、血糖が高くなると口の渇きや多尿といった症状が現れますが、高齢者ではこれらの自覚が乏しく、気づかないうちに高血糖が進行し、脱水に至ることがあります。

低血糖の自覚症状も乏しくなります。これについては後で詳しく述べますが、高齢者の血糖管理において最も注意すべき点です。

個人差が非常に大きい ことも特徴です。同じ年齢でも、認知機能、身体機能(ADL)、併存疾患の有無、家族のサポート体制などは人によって大きく異なります。そのため、高齢者の糖尿病では「全員に同じ目標」を当てはめることが難しくなります。

最大の注意点は「低血糖」

高齢者の血糖管理において、最も警戒すべきは 低血糖 です。糖尿病の薬の中でもインスリンや低血糖のリスクのある薬剤(スルホニル尿素薬グリニド薬)を使用している場合に注意が必要です。

若い方であれば、低血糖が起こると発汗、動悸、手のふるえといった警告症状が現れ、本人が異変に気づいて糖分を補給できます。しかし高齢者では、これらの警告症状が減弱あるいは消失し、低血糖に気づきにくくなります。これを無自覚性低血糖といいます。

さらに高齢者の低血糖では、頭がくらくらする、体がふらふらする、動作がぎこちない、めまい、脱力感、ろれつが回らない、目がかすむといった、非典型的な症状が現れることがあります。これらは低血糖のサインと気づかれにくく、見逃されやすいため、重症の低血糖に至る危険があります。

そして重要なのは、重症低血糖が、認知症、転倒・骨折、心血管疾患のリスクを高めることが報告されている点です。特に認知症と低血糖の間には、認知症があると低血糖を起こしやすくなる一方、低血糖を繰り返すと認知症が進みやすくなるという、双方向の関係があると考えられています。低血糖は転倒や骨折のリスクも高め、フレイル(心身の虚弱)の一因にもなります。

つまり、高齢者では血糖を下げることばかりを重視すると、かえって健康を損なう危険があるのです。低血糖についての基本的な知識は、当院のブログでも詳しく解説しています。

血糖管理の目標は「個別化」される

こうした高齢者の特性をふまえ、日本糖尿病学会と日本老年医学会は合同で「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」を定めています。

この目標の大きな特徴は、患者さんの状態に応じて目標値を個別に設定するという点です。具体的には、認知機能や日常生活動作(ADL)、併存疾患などをもとに、患者さんを次の三つのカテゴリーに分類します。

カテゴリーI:認知機能が保たれ、日常生活が自立している方

カテゴリーII:手段的ADLの低下や、軽度の認知機能障害がある方

カテゴリーIII:中等度以上の認知症がある、基本的ADLが低下している、または多くの併存疾患をお持ちの方

合併症予防のための目標は、高齢者でも基本的にHbA1c 7.0%未満ですが、治療の強化が難しい場合には8.0%未満、カテゴリーIIIで一定の条件がある場合には8.5%未満を目標とすることも許容されています。

そして、ここが特に重要なのですが、低血糖を起こしやすい薬(インスリン製剤、スルホニル尿素薬、グリニド薬など)を使用している場合には、目標値に「下限値」が設けられます。たとえばカテゴリーや年齢に応じて、HbA1cが7.0%を下回らないように、あるいは6.5%を下回らないように、といった下限が定められます。

つまり、若い世代においても低血糖予防は大事なことですが、高齢者の場合、さらに低血糖予防が重要になるということです。低すぎる血糖は、高すぎる血糖と同様に、あるいはそれ以上に危険だからです。

最近では、インスリンを使用中の方に対してリブレやdexcomといった持続血糖測定器が使用できるようになり、低血糖予防には有効なツールとなっています。高齢者の方でもこれら持続血糖測定は有用となることがあります。

「高齢だから適当でよい」は誤解

ここまで「高齢者では血糖を厳しく下げすぎない」とお伝えしてきましたが、これを「もう高齢だから血糖は気にしなくてよい」と受け取らないでいただきたいのです。

確かに、過度に厳格な管理は高齢者には不要です。しかし、それは 「管理そのものをやめてよい」という意味ではありません

たとえば80歳の方を考えてみます。平均余命の統計では、80歳の方が今後生きられる年数は、決して短くありません。その期間に血糖管理を放置すれば、網膜症や腎症、神経障害といった合併症が進行し、生活の質が大きく損なわれる可能性があります。せっかくの余生を、合併症に苦しみながら過ごすことになりかねません。

つまり、高齢者の血糖管理で重要なのは、インスリンや低血糖リスクのある薬剤で血糖を下げすぎないようにすること、となります。大切なのは、低血糖を避けつつ、合併症の進行も防ぐという、その方にとっての「ちょうどよい管理」を見つけることです。当院では、こうした考え方を院長の方針として繰り返しお伝えしてきました。

シックデイ(体調不良時)への備え

高齢者の糖尿病では、シックデイへの備えも欠かせません。シックデイとは、発熱、食欲不振、下痢、嘔吐などを伴う体調不良の日を指します。以前の記事に詳細を記載しています。

高齢者はこうした急性疾患にかかりやすく、脱水にも陥りやすい傾向があります。食事が十分に取れないにもかかわらず、普段どおりに血糖を下げる薬やインスリンを使用すると、低血糖を起こす危険があります。逆に、感染などで血糖が大きく上昇し、高浸透圧高血糖状態や糖尿病性ケトアシドーシスといった重篤な状態に進むこともあります。

そのため、食事が取れないときに薬をどう調整するか(シックデイルール)を、あらかじめ主治医と決めておくことが重要です。どの薬を中止し、どの薬を続けるのか、どのような場合に医療機関へ連絡すべきかを、ご本人だけでなくご家族も一緒に確認しておくと安心です。

家族・周囲のサポートの大切さ

高齢者の糖尿病管理は、ご本人だけで完結するものではなく、ご家族や周囲のサポートが大きな役割を果たします

服薬の管理、通院の付き添い、食事の準備など、サポートできる場面は多くあります。特に、ご本人が気づきにくい低血糖のサインに、周囲が気づいてあげられることは大きな助けになります。「最近ふらつくことが増えた」「ぼんやりしている時間が増えた」といった変化は、低血糖や血糖管理の乱れを示していることがあります。

一方で、高齢者では低栄養やフレイルにも注意が必要です。血糖を気にするあまり食事を制限しすぎると、かえって筋力や体力が落ちてしまいます。「厳しく制限する」よりも「無理なく続けられる」体制をつくるという視点が、高齢者では特に大切です。

ご家族の負担が大きくなりすぎないよう、医療機関や介護サービスと連携しながら、支える体制を整えていくことをおすすめします。

高齢の方の血糖管理で大切にしたいこと

最後に、改めて整理します。

糖尿病治療の目的は、血糖値そのものを下げることではなく、合併症を防ぎ、糖尿病のない方と変わらない生活の質を保つことにあります。これは年齢を問わず共通の目標です。

ただし、その実現の仕方は年齢とともに変わります。高齢者では、低血糖を避けながら、その方の認知機能や生活状況に合った「ちょうどよい管理」を目指すこと。数値だけにとらわれず、生活全体を見渡して管理を組み立てること。そして、ご家族や周囲とともに、無理なく続けられる体制をつくること。これらが、高齢者の血糖管理で大切にしたい考え方です。

ご高齢のご本人、あるいはご家族の糖尿病について、「今の管理がその人に合っているのだろうか」と気になることがあれば、一度ご相談ください。当院では、私自身が1型糖尿病であり、糖尿病専門医も取得しております。患者さんお一人おひとりの年齢や生活状況に応じて、無理のない血糖管理を一緒に考えています。糖尿病内科をどのようなタイミングで受診すればよいかについては、別の記事でまとめています。インスリン治療中の方に対しては、当院でリブレやdexcomといった持続血糖測定器を使用することができます。

もし他のクリニックさんで合わないと感じられた方も、ぜひお気軽にお越しください。

かみうち内科クリニック 院長 神内 謙至