かみうち内科クリニック(内科・糖尿病内科)院長 神内 謙至です。
メトホルミンは、2型糖尿病の治療薬として世界中で最も広く使われている薬の一つです。血糖値を下げる効果に加え、心血管イベントの抑制や、がんの抑制効果が報告されており、薬価も安いという、患者さんにとってメリットの多い薬です。
しかし、長期間にわたって服用していると、ビタミンB12が不足してくることがあります。これは見落とされがちな副作用ですが、貧血や末梢神経障害といった症状につながる可能性があるため、注意が必要です。
今回は、メトホルミンの基本的な作用と位置づけを整理したうえで、ビタミンB12欠乏が起こる機序、現れる症状、特に注意すべき方の特徴、そして対策について解説します。
以前にもこのブログで解説しておりますが、
メトホルミンとはどのような薬か
メトホルミンは、ビグアナイド系と呼ばれる経口血糖降下薬の一種です。米国糖尿病協会(ADA)の標準診療指針において、禁忌でなく忍容性があれば、2型糖尿病の薬物療法の第一選択薬として強く推奨されています。日本糖尿病学会の『糖尿病診療ガイドライン』においても、2型糖尿病の薬物療法の中で重要視されております。
メトホルミンの作用機序は主に三つあります。
第一に、肝臓での糖新生の抑制です。糖新生とは、肝臓がアミノ酸や乳酸などからブドウ糖を作り出す働きのことで、メトホルミンはこれを抑えることで空腹時の血糖上昇を抑えます。
第二に、末梢組織におけるインスリン感受性の改善です。筋肉などの細胞がインスリンに反応しやすくなり、血液中のブドウ糖を取り込みやすくなります。
第三に、腸管からのブドウ糖吸収の遅延も報告されています。
これらに加え、メトホルミンには血糖を下げる以外のメリットも多く報告されています。心血管イベントの抑制効果、複数のがん(膵臓がん・大腸がん・肝細胞がんなど)における発症リスクの低下、そして他の糖尿病治療薬と比べて薬価が安いという経済的メリットです。長く使われてきた薬であるからこその実績と安全性のデータの蓄積も、メトホルミンの強みといえます。
メトホルミンの副作用と注意点
メトホルミンには有用性がある一方で、いくつかの副作用も知られています。
最も頻度が高いのが消化器症状です。吐き気、下痢、腹部の不快感などが、服用開始後の数日から数週間に現れることがあります。これらは通常、食後に服用する、低用量から開始して徐々に増量するなどの工夫で軽減されることが多いとされています。
まれですが重篤な副作用として、乳酸アシドーシスがあります。腎機能や肝機能が低下している方、脱水状態の方、過度の飲酒をされる方、心不全をお持ちの方では、リスクが高まることが知られています。特に腎機能の低下している方は乳酸アシドーシスのリスクが高くなるため使用しないほうがいいでしょう。
そして、長期に服用している方で見落とされがちな副作用が、ビタミンB12欠乏です。
なぜメトホルミンでビタミンB12欠乏が起こるのか
ビタミンB12は、DNA合成、神経保護、赤血球産生など、体の基本的な働きに関わる重要なビタミンです。主に肉、魚、卵、乳製品といった動物性食品に含まれており、植物性食品にはほとんど含まれていません。
通常、食物に含まれるビタミンB12は、胃酸とペプシンによって食物のタンパク質から切り離されます。その後、胃の壁細胞から分泌される「内因子」と呼ばれるタンパク質と結合し、回腸(小腸の終わりの部分)でカルシウム依存性の経路により吸収されます。
メトホルミンがこの回腸でのビタミンB12吸収を阻害することが、長期服用による欠乏の原因と考えられています。詳細な機序は完全には解明されていませんが、メトホルミンが回腸の細胞表面でのカルシウム依存性の吸収プロセスに干渉する可能性が示唆されています。
当院の過去のブログでも、この点についてご紹介してきました。
ビタミンB12欠乏で現れる症状
ビタミンB12欠乏によって現れる症状をご紹介します。主に4つで血液系と神経系に分かれます。
大球性貧血 は、ビタミンB12欠乏の代表的な所見です。ビタミンB12は赤血球の正常な成熟に関わるため、欠乏すると赤血球が大きくなる一方で数が減少します。健康診断などで「赤血球の体積(MCV)が大きい」「赤血球の数が少ない」と指摘されたことがある方は、原因の一つとしてビタミンB12欠乏が考えられます。
末梢神経障害 は、もう一つの重要な症状です。手足のしびれ、ピリピリ感、感覚の鈍さなどが現れることがあります。ここで難しいのは、糖尿病そのものでも末梢神経障害が起こるという点です。糖尿病性の神経障害なのか、ビタミンB12欠乏による神経障害なのか、症状だけで区別することは困難です。だからこそ、検査での確認が重要となります。
全身倦怠感や息切れ も、貧血の進行に伴って現れることがあります。「最近疲れやすくなった」「階段で息が切れるようになった」といった変化は、加齢や運動不足だけでなく、ビタミンB12欠乏による貧血が背景にある可能性も否定できません。
認知機能や精神面への影響 が報告されることもあります。集中力の低下、記憶の不調、気分の変化などです。高齢の方では認知症と紛らわしい症状を呈することがあるため、慎重な評価が求められます。
これらの症状は、いずれも特異的なものではありません。しかし、メトホルミンを長期に服用しており、これらの症状が当てはまる場合には、ビタミンB12欠乏も鑑別の一つとして検討する必要があります。
特に注意すべき方
メトホルミン服用中の全ての方が同じリスクを持つわけではなく、いくつかの要因によってビタミンB12欠乏を起こしやすい方が知られています。
・長期にメトホルミンを服用している方/高容量(1日1,500mg以上)を服用している方
服用期間が長くなるほど、ビタミンB12の体内貯蔵が減少していく傾向があります。また、用量が多いほどリスクが高まると言われています。
・高齢者
年を重ねるほど胃酸分泌が低下しやすく、ビタミンB12の吸収効率が落ちている方が多いです。
・プロトンポンプ阻害薬(PPI)など、胃酸を抑える薬を併用している方
胃酸が減ると、食物中のビタミンB12を切り離す段階から障害が生じます。
・動物性食品の摂取が少ない方
ビタミンB12の供給源が限られるため、欠乏に至りやすくなります。
これらに当てはまる方は、特に定期的なチェックが望ましいといえます。
ビタミンB12欠乏のチェックと対策
幸い、ビタミンB12欠乏は採血で確認することができます。血中ビタミンB12濃度の測定が基本となりますが、境界域の数値の場合には、メチルマロン酸やホモシステインといった指標の測定で、より早期の欠乏を捉えることができます。あわせて貧血の有無、赤血球の体積(MCV)の確認も行います。
米国糖尿病協会(ADA)は、メトホルミン服用中の患者さんに対して、特に貧血や末梢神経障害がある場合には、定期的なビタミンB12測定を考慮することを推奨しています。
ビタミンB12欠乏が確認された場合には、経口ビタミンB12製剤の内服や、必要に応じて筋肉注射による補充を行います。多くの場合、適切な補充により症状の改善が期待できます。
ここで重要なのが、メトホルミンを自己判断で中止しないことです。メトホルミンは血糖管理において有用な薬であり、自己判断で中止すれば血糖コントロールが悪化する可能性があります。ビタミンB12欠乏が見つかった場合でも、メトホルミンを続けながらビタミンB12を補充するという方法が現実的です。判断は必ず主治医とご相談ください。
当院での取り組み
当院では、長期にメトホルミンを服用されている患者さんに対して、定期的な採血で貧血の有無を確認しています。MCVの上昇や原因不明の貧血が見られた場合には、ビタミンB12の測定を追加して、欠乏の有無を確認します。
末梢神経障害を訴えられる方については、糖尿病性の神経障害なのか、ビタミンB12欠乏によるものなのか、両者の鑑別を慎重に進めます。糖尿病性の場合はHbA1cなど血糖管理の見直しが中心となりますが、ビタミンB12欠乏による場合は補充療法が有効です。
ビタミンB12の補充が必要な場合には、内服または注射でしっかりと補い、その後も定期的にフォローアップを行います。
メトホルミンを安心して続けるために
ここまで、メトホルミンに伴うビタミンB12欠乏について解説してきましたが、誤解を避けるために強調しておきたいことがあります。
メトホルミンは依然として、2型糖尿病治療において非常に有用な薬です。ビタミンB12欠乏のリスクがあるからといって、避けるべき薬では決してありません。米国糖尿病協会も日本糖尿病学会も、第一選択薬としての位置づけは変えていません。
大切なのは、「メリットを享受しながら、リスクを適切に管理する」という姿勢です。そのためには、継続的なフォローアップと、必要なタイミングでの検査が欠かせません。糖尿病専門医による定期的な診察と血液検査の組み合わせがあれば、メトホルミンを安心して長期に続けることが十分に可能です。
メトホルミンの服用中に「最近、手足がしびれるようになった」「疲れやすくなった」「健診で貧血を指摘された」といった変化があれば、それはビタミンB12欠乏のサインかもしれません。気になる症状があれば、自己判断せず、早めに主治医にご相談ください。受診の目安はこちら
当院では、私自身が1型糖尿病であり、糖尿病専門医も取得しております。メトホルミンを含めた糖尿病治療について、患者さんお一人おひとりの状況に応じたきめ細かな対応を心がけています。もし他のクリニックさんで合わないと感じられた方も、ぜひお気軽にお越しください。
かみうち内科クリニック 院長 神内 謙至


