かみうち内科クリニック(内科・糖尿病内科)院長 神内 謙至です。
「足の裏がしびれる」「感覚が鈍い気がする」「小さな傷がなかなか治らない」。糖尿病で通院されている方から、こうしたご相談をいただくことがあります。これらは、見過ごされがちですが、糖尿病の合併症である神経障害のサインかもしれません。
糖尿病の足の問題は、初期には軽い違和感として現れ、気づかないうちに進行することがあります。そして、進行すると足の潰瘍や壊疽といった重い状態につながることもあり、日々のケアと早期の対応が非常に重要です。
本稿では、糖尿病神経障害がなぜ起こるのか、どのような症状に注意すべきか、そして今日から実践できるフットケアについて解説します。
糖尿病神経障害とは – 三大合併症のひとつ
糖尿病には、代表的な三つの合併症があります。神経障害、網膜症(目)、腎症(腎臓)で、これらは「し(神経)め(目)じ(腎臓)」という語呂で覚えられることもあります。このうち、比較的早い段階から現れやすいのが神経障害です。糖尿病神経障害については、以前にも記事に載せていますので是非ご覧ください。
糖尿病神経障害は、糖尿病の発症から10〜15年ほどで、患者さんの半数近くに現れるとも言われています。ただし、これはあくまで目安であり、血糖の状態や個人差によって、より早く現れることも、遅れて現れることもあります。
神経障害にはいくつかの種類がありますが、最も多いのが足の末梢神経が障害されるタイプです。特徴は、足の末端、つまり足の裏や足の指から症状が始まり、少しずつ範囲が広がっていくことです。その後、手指にも症状が広がっていきます。左右対称に、靴下や手袋で覆われる範囲に症状が出やすいことも知られています。
なぜ神経が障害されるのか
では、糖尿病でなぜ神経が傷ついていくのでしょうか。いくつかの仕組みが関わっています。
一つは、高血糖による代謝の異常です。血糖の高い状態が続くと、神経の細胞内に「ソルビトール」という物質がたまり、神経が正常に働きにくくなると考えられています。
もう一つは、終末糖化産物(AGEs)の蓄積です。高血糖が続くと、体の中でタンパク質と糖が結びついてできるAGEsという物質が増え、神経や血管を傷つけていきます。
さらに、血流の低下も関わります。神経に栄養や酸素を送る細い血管が高血糖でダメージを受けると、神経は必要な栄養を受け取れなくなり、機能が低下していきます。
これらの要因が重なって、少しずつ神経が障害されていくのが糖尿病神経障害です。
こんな症状に注意
糖尿病神経障害の症状は、初期には軽く、見逃されやすいものです。次のような症状に心当たりがないか、確認してみてください。
- 足の裏や足の指がしびれる、ピリピリする
- 足の感覚が鈍い、触った感じや温度が分かりにくい
- 足がつりやすい(こむら返り)
- じんじんとした痛みや、焼けるような痛みがある
- 足に違和感があり、砂利の上を歩いているような感じがする
これらの症状は、片足だけよりも両足に、また足先や足裏から現れることが多いのが特徴です。
アキレス腱反射検査は、糖尿病神経障害を簡便に評価できる重要な診察項目です。症状がない早期の段階でも反射の低下や消失がみられることがあり、神経障害の早期発見に役立ちます。検査は打腱器を用いて短時間で痛みなく実施できます。振動覚検査や足の診察と併せて評価することで、糖尿病性神経障害の有無や進行状況を把握するうえで有用であり、重要な身体診察の一つです。
なお、手足のしびれは、糖尿病神経障害だけでなく、ほかの原因でも起こります。たとえば、ビタミンB12の欠乏でも似た症状が現れることがあり、糖尿病の治療薬であるメトホルミンを長く使っている方では、この点にも注意が必要です。
最も怖いのは「傷に気づけないこと」
糖尿病の足の問題で、最も警戒しなければならないのは、感覚が鈍くなることで、傷やけがに気づけなくなることです。
神経障害が進むと、痛みや熱さを感じにくくなります。すると、靴擦れ、小さな切り傷、低温やけど、深爪などがあっても、痛みを感じないために気づかず、そのまま放置してしまうことがあります。
さらに、糖尿病では高血糖によって細菌に対する抵抗力が落ち、動脈硬化によって足の血流も低下しがちです。その結果、傷が治りにくく、感染が広がりやすい状態になります。
こうして、小さな傷が潰瘍(かいよう)へと悪化し、さらに進むと組織が壊死する壊疽(えそ)に至り、最悪の場合は足の切断が必要になることもあります。「たかが傷」と思わず、早い段階で対応することが、足を守るために欠かせません。
今日からできるフットケア
足を守るために、日常生活の中でできるフットケアをご紹介します。特別な道具は必要なく、習慣にすることが何より大切です。これも以前に記事に載せています。よければご覧ください。
① 毎日、足を観察する
足の裏や指の間まで、傷・水ぶくれ・赤み・色の変化・タコやウオノメがないか確認します。見えにくい場合は鏡を使うとよいでしょう。
②足を清潔に保ち、保湿する
ぬるま湯で優しく洗い、乾燥する場合は保湿クリームを塗ります。ただし、指の間は蒸れないよう注意します。
③やけどに注意する
感覚が鈍くなっていると、湯たんぽやカイロ、熱いお湯で低温やけどを起こしやすくなります。温度を必ず手で確かめましょう。
進行を防ぐ最大の鍵は血糖管理
フットケアと並んで、あるいはそれ以上に重要なのが、血糖管理そのものです。
糖尿病神経障害は、血糖の高い状態が続くことで進行します。逆に、血糖管理を良好に保つことで、症状の進行を抑えたり、しびれなどの症状が軽くなったりすることも期待できます。フットケアで足を守りながら、根本にある血糖の管理を続けること。この両輪が、足を守るために欠かせません。
血糖管理の具体的な進め方については、HbA1cを改善するための生活の工夫や、無理なく続けられる運動の取り入れ方をまとめています。神経障害を防ぎ、進行を抑えるうえでも、これらの日々の積み重ねが土台になります。
こんなときは受診を
次のような場合は、速やかに医療機関を受診してください。
足に傷、水ぶくれ、赤み、腫れ、色の変化がある / 傷がなかなか治らない、または悪化している / しびれや痛みが強くなってきた / 足の感覚が明らかに鈍くなってきた
これらは、足の状態が悪化しているサインかもしれませんので、早めの対応が特に重要です。
糖尿病内科をどのようなタイミングで受診すればよいかについては、別の記事でもまとめています。
まとめ
糖尿病神経障害は、三大合併症のひとつであり、足のしびれや感覚の鈍さとして現れます。そして、感覚が鈍くなることで傷に気づけず、潰瘍や壊疽へと進んでしまう危険があります。
だからこそ、毎日のフットケアで足の変化に早く気づくこと、そして根本にある血糖管理を続けることが大切です。足のしびれや傷の治りにくさは、体が発しているサインです。放置せず、気になることがあれば一度ご相談ください。
当院では、私自身が1型糖尿病であり、糖尿病専門医も取得しております。糖尿病治療を行う際、糖尿病性神経障害の検査のため、定期的に足の観察を行っています。さらに足のケアの相談まで、患者さんお一人おひとりの状況に応じた対応を心がけています。もし他のクリニックさんで合わないと感じられた方も、ぜひお気軽にお越しください。
かみうち内科クリニック 院長 神内 謙至


