かみうち内科クリニック(内科・糖尿病内科)院長 神内 謙至です。
暑い季節になると、熱中症対策として水分補給が欠かせなくなります。その際、スポーツドリンクを飲む機会が増える方も多いのではないでしょうか。一方で、「スポーツドリンクは糖分が多くて危険」という情報を目にして、不安に感じている方もいらっしゃるかと思います。
結論から申し上げると、スポーツドリンクは適切な場面で適切に使えば有用な飲料です。ただし、血糖が上がりやすい体質がある場合に多量に飲み続けると「ペットボトル症候群」と呼ばれる状態に陥る危険性が増えるため、注意が必要です。そして、糖尿病専門医の立場からは、この問題はもう少し慎重に捉える必要があると考えています。
本稿では、スポーツドリンクに含まれる糖分の実態、ペットボトル症候群が起こる仕組み、当院の考え方、そして上手な水分補給の方法について解説します。
スポーツドリンクにはどのくらいの糖分が含まれているのか
まず、スポーツドリンクに含まれる糖分の量を具体的に見てみましょう。
代表的なスポーツドリンクの場合、500mlのペットボトル1本あたりに含まれる糖質は、製品によっておよそ23〜31g程度です。これを角砂糖(1個約3g)に換算すると、およそ7〜10個分に相当します。
糖質には単純糖質と複合糖質があります。単純糖質とは、最小単位の単糖類(ブドウ糖・果糖)や、それが2つくっついた二糖類(ショ糖・乳糖など)のことです。分子構造がシンプルで消化・吸収が非常に早いため、血糖値の急上昇や脂肪の蓄積を招きやすいのが特徴です。複合糖質は多数の糖の分子が鎖のように長く結合したもので、消化・吸収に時間がかかる糖質です。ごはん、パン、麺類、いも類、オートミールなどが代表的な食品です。清涼飲料水に含まれる糖質は単純糖質と考えるとよいでしょう。
世界保健機関(WHO)は、成人の1日あたりの単純糖質摂取量の目安を約25gとしています。つまり、スポーツドリンクを500ml飲むだけで、1日分の糖分の目安に達してしまう、あるいは超えてしまうことになります。
「水分補給のつもり」で飲んでいた一本が、実は相当量の単純糖質摂取になっている。この事実は、意外と知られていません。飲料は固形物に比べて吸収が早いため、摂取した糖分が短時間で血液中に流れ込み、血糖値を急激に上昇させやすいという特徴もあります。
ペットボトル症候群(清涼飲料水ケトーシス)とは
ペットボトル症候群 という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。正式には「清涼飲料水ケトーシス」または「ソフトドリンクケトーシス」と呼ばれ、1992年に国内の研究グループによって報告された病態です。
これは、単純糖質を多く含む清涼飲料水(スポーツドリンク、炭酸飲料、ジュースなど)を短期間に大量に摂取することで、血糖値が異常に高くなり、体内でケトン体という物質が過剰に産生される状態を指します。
軽度であれば倦怠感やのどの渇き程度ですが、重症化すると意識障害や昏睡を引き起こし、命に関わることもあります。糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)や高浸透圧高血糖状態(HHS)といった、緊急の治療を要する状態に至るケースも報告されています。
なぜ起こるのか – 悪循環のメカニズム
ペットボトル症候群が起こる過程には、ある悪循環が関係しています。
血糖が高くなりやすい体質を持っている場合に、何らかの原因で、血糖値が上昇することがあります。血糖値が高くなると、多尿の症状が出現するため脱水状態となります。体は水分を求め、のどが渇きます。ここで単純糖質の多い飲料を摂取すると、血糖値はさらに上昇します。のどの渇きが非常に強くなるので、さらに糖分の多い飲料を大量に摂取することになり、悪循環が形成されていきます。
高血糖が続くと、インスリンの分泌や働きが低下 します。これを「糖毒性」と呼びます。インスリンが十分に働かなくなると、体はブドウ糖をエネルギーとしてうまく利用できなくなります。
そこで体は、代わりのエネルギー源として脂肪を分解し始めます。脂肪が分解される際に産生されるのがケトン体 です。ケトン体が血液中に増えると、血液が酸性に傾き、これがペットボトル症候群のさまざまな症状を引き起こします。
当院の考え方 – 「原因」ではなく「結果」という視点
ここまでは一般的な説明ですが、糖尿病専門医として、もう一歩踏み込んだ見方をお伝えしたいと思います。
ペットボトル症候群について、「スポーツドリンクを飲むと糖尿病になる」という単純な因果で語られることがよくあります。しかし、実際の臨床では、清涼飲料水の多飲は高血糖の「原因」というよりも、むしろ「結果」である場合が少なくない と考えています。
どういうことか。まず、何らかの理由で血糖値が上がるのですが、その理由は確かにスポーツドリンクや清涼飲料水を多量に飲んでしまったことがきっかけになるかもしれませんが、急激なストレスやシックデイでも血糖は上がることがあります。もともと血糖が上がりやすい体質を持っているためにこのようなことでも血糖が上がってしまうのです。その結果、多尿が起こり、体は脱水に傾きます。すると強いのどの渇きが生じ、のど越しのよい清涼飲料水を多飲してしまう。つまり、「血糖が上がりやすい状態」が先にあって、その結果として清涼飲料水の多飲に至る というケースがほとんどと考えています。実際にペットボトル症候群を経験した方に話を聞くと、「どうしてあの時はあれだけジュースを飲んでいたのかわからない、今は飲みたいとも思わない」と口をそろえて話します。まず最初に血糖が上がった時には、医療機関にも通わず、血糖を測る機会は全くないのですから、その原因は見極めようがありません。
1型糖尿病の発症時 には、この経過をたどることがあります。発症によってインスリンが急速に不足し、高血糖と強い口渇が出現し、清涼飲料水を多飲しているうちにペットボトル症候群に至る、という流れです。
上手な水分補給のために
ここで誤解していただきたくないのは、スポーツドリンクが一律に「悪」なのではない、ということです。大切なのは、シーンに応じた使い分けです。
日常的な水分補給は、水やお茶が基本 です。デスクワークや軽い日常生活の中での水分補給に、糖分の多いスポーツドリンクを選ぶ必要はありません。発汗を伴う運動時にも、普段の食事をしっかり食べている場合には、水やお茶の水分補給で十分なことが多いです。
一方、マラソンなどの強度の強い長期間の運動時や真夏の炎天下で日中のほとんどを過ごすようなときには2-3L以上の発汗があり、水分とともに電解質を補給できるスポーツドリンクや経口補水液が役立ちます。嘔吐下痢・食欲不振などで食事がとれず、脱水状態のとき にも、スポーツドリンクや経口補水液が好ましいです。特に高齢者では、気温が高くなると、自宅にいても食欲不振が出て、食事量や飲水量が少なくなった場合には、容易に脱水状態になるため、水分・電解質補給のために経口補水液は有効です。
さらに、糖尿病治療中に低血糖のリスクのある薬剤(インスリン・スルホニル尿素薬・グリニド薬)を使用している場合、低血糖を起こすことがあります。低血糖を起こしたときに単純糖質の入ったスポーツドリンクを適量飲むことは好ましいと言えます。
つまり、「危険だから一切飲まない」でも「いつでも自由に飲む」でもなく、目的に応じて選ぶ という姿勢が現実的です。特に糖尿病をお持ちの方や、血糖値が気になる方は、スポーツドリンクは血糖が速やかに上がるリスクがあり注意が必要です。
こんな症状があれば受診を
次のような症状が急に現れた場合は、高血糖のサインである可能性があります。自己判断で様子を見ず、医療機関の受診を検討してください。
- 急にのどの渇きが強くなった
- 尿の量や回数が増えた
- 食べているのに体重が減ってきた
- 強い倦怠感が続く
これらの症状については、当院のブログでも詳しく解説しています。
また、糖尿病内科をどのようなタイミングで受診すればよいか、初診ではどのような検査を行うのかについても、別の記事でまとめています。
スポーツドリンクと上手に付き合うために
スポーツドリンクは、適切な場面で使えば、熱中症対策や運動時の補給に役立つ有用な飲料です。しかし、血糖が速やかに上がる可能性のある単純糖質が多く含まれているため、注意が必要です。
そして、糖尿病専門医の立場からは、その背景に血糖が上がりやすい体質がある場合にペットボトル症候群を起こしやすいと考えています。清涼飲料水の多飲は、高血糖の結果として現れていることがあるからです。
正しい知識を持って、スポーツドリンクと上手に付き合っていただければと思います。
もし、強いのどの渇きや急な体重減少など、気になる症状がある方は、自己判断せず一度ご相談ください。当院では、私自身が1型糖尿病であり、糖尿病専門医も取得しております。糖尿病の早期発見から治療まで、患者さんお一人おひとりの状況に応じた対応を心がけています。もし他のクリニックさんで合わないと感じられた方も、ぜひお気軽にお越しください。
かみうち内科クリニック 院長 神内 謙至


