「こころの処方箋」より

ともかく正しいこと、しかも100%正しいことを言うのが好きな人がいる。…煙草を吸っている人には「煙草は健康を害します」と言う。何しろ、誰がいつどこで聞いても正しいことを言うので、言われた方としては「はい」と聞くか、無茶苦茶でも言うより仕方がない。…もちろん、正しいことを言ってはいけないなどということはない。しかし、それはまず役に立たないことくらいは知っておくべきである。…打席に入る選手に向かって「ヒットを打て」というのは100%正しいことだが、まず役に立つ忠告ではない。
…ひょっとすると失敗かもしれぬ、しかしこの際はこれだという決意を持ってするから忠告も生きてくる。己を賭けることもなく、責任を取る気もなく、100%正しいことを言うだけで、人の役に立とうというのは虫が良すぎる。

(河合隼雄「こころの処方箋」より)

糖尿病診療を行う際、医療者として気を付けないといけない事柄だと思います。「食べ過ぎないようにしましょう」「おやつは控えましょう」「バランスのいい食事をとりましょう」「運動をしましょう」など、いわゆる100%正しい言葉は私も言わないわけではありませんが、役に立たないのです。もっと真剣に考えて診療をしていくべきだと思います。