かみうち内科クリニック(内科・糖尿病内科)院長 神内 謙至です。
「インスリン注射をすすめられたけれど、一度始めたら一生やめられないのでは」「インスリンは、いよいよ悪くなった人が使う最後の手段では」。糖尿病の治療でインスリンが話題になると、こうした不安の声をよくお聞きします。
インスリン療法には、実際よりも重く、否定的なイメージがつきまとっているように感じます。その多くは、正確でない情報にもとづく誤解です。誤解のためにインスリン治療をためらい、かえって血糖の高い状態を長引かせてしまうのは、とてももったいないことです。
本稿では、インスリンにまつわる代表的な5つの誤解について、一つずつお答えしていきます。
誤解1「一度始めたら一生やめられない」
最もよくある誤解が、これです。結論から言えば、糖尿病のタイプによって答えは異なります。
1型糖尿病の場合は、膵臓でインスリンを作る力がほとんど失われているため、インスリンを補い続けることが必要です。この場合、インスリンは生きていくために欠かせないものです。
一方、2型糖尿病では、インスリンを始めても、後でやめられる場合があります。特に、診断されたばかりで血糖が非常に高いときなどに、一時的にインスリンで血糖を下げ、その後に飲み薬や生活の工夫だけで管理できるようになり、インスリンを離脱できるケースは少なくありません。
「インスリン=一生」というのは、すべての人に当てはまる話ではないのです。
誤解2「インスリンは”最後の手段”、重症の証拠だ」
「インスリンをすすめられた=もう手遅れ」というイメージも根強くあります。しかし、これも正確ではありません。
高血糖の状態が続くと、膵臓のインスリンを作る細胞(β細胞)は、頑張ってインスリンを出し続けようとして、疲弊していきます。この状態を放置すると、細胞はますます弱ってしまいます。
ここで早めにインスリンを外から補うと、疲れた膵臓を休ませることができます。休ませることでβ細胞が回復し、自分のインスリン分泌力が戻ってくることもあります(これを「糖毒性の解除」といいます)。
つまり、インスリンは「最後の手段」というより、早い段階で膵臓を守るための、前向きな選択肢にもなりうるのです。誤解2で述べた「後でやめられる」ケースは、まさにこの仕組みによるものです。
誤解3「注射は痛くて、大変そう」
注射と聞くと、痛みや手間を心配される方が多いです。予防接種や採血の針を思い浮かべると、無理もありません。
しかし、インスリン注射に使う針は、非常に細く短く作られており、痛みはごくわずかなことが多いです。
多くの方が「思っていたより痛くなかった」とおっしゃいます。注射する場所もお腹や太ももなどで、自分で手軽に行えるよう工夫されています。
手技もシンプルで、慣れれば短時間で済みます。「大変そう」というイメージだけで敬遠してしまうのは、もったいないと言えます。
誤解4「インスリンを打つと合併症が進む、依存してしまう」
「インスリンを始めた人が、その後で合併症が進んだ」という話を耳にして、インスリンが原因だと感じてしまう方がいます。しかし、これは順序が逆です。
多くの場合、インスリンが必要になるのは、すでに血糖の高い状態が続いていたためです。合併症を進めるのは、インスリンではなく、高血糖そのものです。むしろインスリンで血糖を適切に管理することは、合併症を防ぐことにつながります。
また、「依存」という言葉が使われることもありますが、これも誤解を招く表現です。インスリンは、麻薬のように体が離れられなくなるものではありません。体に足りないものを補っているだけであり、必要がなくなれば減らしたり中止したりできます。
誤解5「インスリンは体に悪い、不自然なものだ」
「わざわざ薬を体に入れるのは不自然で、体に悪いのでは」という不安もお聞きします。
しかし、インスリンはもともと私たちの体の中で作られているホルモンです。健康な人の膵臓は、常にインスリンを分泌して血糖を調整しています。糖尿病でインスリンが足りない、あるいは効きにくくなっているときに、その不足を補うのがインスリン療法です。
体にない異物を入れているのではなく、本来あるべきものを補っている。これがインスリン治療の本質です。決して不自然なものでも、体に悪いものでもありません。
当院での考え方
ここまで5つの誤解についてお答えしてきましたが、大切なのは、正しい理解のもとで、ご自身に合った治療を選んでいくことです。
注意点として、特に2型糖尿病の方で、インスリンを打たないように血糖管理をすると考える場合があります。これは絶対によくないことです。食事療法・運動療法・そしてインスリン治療を含む薬物療法はすべて目的が一つで合併症予防のためのものです。食事療法や運動療法も合併症予防のためにするものでインスリンを打たないようにするものではありません。もし食事療法や運動療法をするのは、インスリンを打たないためだ、と考えている場合、インスリンがますます嫌なものとなってしまいます。インスリン治療が必要なときにも開始できない場合、合併症が進む恐れもあります。もし糖尿病治療中に主治医が「血糖が高いままだとインスリンになるよ」と脅すようなことをいうなら、その主治医には診てもらわないほうがいいでしょう。
インスリンが必要かどうか、始めた後にやめられる可能性があるかどうかは、糖尿病のタイプや膵臓の状態によって異なります。不安な点があれば、遠慮なく主治医に質問してください。
当院では、私自身が1型糖尿病であり、日々インスリン療法を続けながら生活しています。だからこそ、インスリンに対する不安や、暮らしの中での工夫について、患者さんと同じ目線でお話しできることが強みだと考えています。また、糖尿病専門医として、その方にとってインスリンが本当に必要か、いつまで必要かを、丁寧に見極めることを心がけています。低血糖など、インスリン使用中に気をつけたいことについては、別の記事でも解説しています。
まとめ
インスリンにまつわる「一生やめられない」「最後の手段」「依存する」といったイメージの多くは、正確でない誤解です。特に2型糖尿病では、インスリンで膵臓を休ませることで、後にやめられる場合もあります。インスリンは、体にもともとあるホルモンを補う、前向きな治療の選択肢です。
誤解のためにインスリン治療をためらい、高血糖を長引かせてしまうことのないよう、正しい理解を持っていただければと思います。
インスリンについて不安や疑問がある方は、一度ご相談ください。当院では、私自身が1型糖尿病であり、糖尿病専門医も取得しております。患者さんお一人おひとりの状態に合わせて、無理のない治療を一緒に考えています。もし他のクリニックさんで合わないと感じられた方も、ぜひお気軽にお越しください。
かみうち内科クリニック 院長 神内 謙至


