1857 年に発刊された「扶氏經驗遺訓」には次のように記されています。
「尿崩『ヂアベテス』羅『ピスフルード』蘭 徴候 小便分泌過度に増多して病患を全軀に現わす者是なり.
尿質は変じて溶渙性を帯びるとあらざるとあり.(中略)其れ世間に最も多くして,殊に注思すべき者は所謂蜜尿なり.尿臭なくして味ひ甘甜尿質減少して糖質を含む.其全軀の病患は口燥ひて咽渴し,皮膚乾涸して腰背掣痛し,(中略)是故に凡そ胸患等の顯著なる局處病なく,形體体消削せる患者に遇へば必ず尿質の撿査を怠るべからず.是毉家喫緊の一則なり.(中略) 蜜尿證に於ては腎中の生機舎密力變常にして,兹に送輸せる血液より尿を製せずして糖を造醸し出だすなり.」
「尿崩」は排尿過多となる疾患で、なかでも「蜜尿證」は糖が尿中に含まれ一亜型であり、局所病がない消耗した患者には「蜜尿證」を疑い必ず尿検査を行うことと記載されています。
「扶氏經驗遺訓」は、1842 年にHufeland のEnchiridion medicum 治療編のオランダ語訳から緒方洪庵により重訳されたもので、写本で流布していたようですが、刊行が始まったのは15 年後の1857年となります。
(羽賀達也他. 糖尿病49. 633-635: 2006より)