服の上からインスリン注射することの安全性(1997年の報告)

(まず第一に使用済みのインスリン注射針を他人に使いまわすのは、肝炎などのウイルス感染のリスクがあるため絶対にいけません。)

この報告は、42人の糖尿病患者に対し、インスリン注射を通常の方法と、衣服の上から消毒をせずに注射した場合の比較を、交互に10週ずつ20週にわたり注射し、検討をしたものです。2つの方法の間には感染やHbA1cの値の差は認められませんでした。(Fleming DR, et al. Diabetes Care. 1997 20: 244-7)

1997年の報告であり、当時の注射針はまだ6mmもしくは8mmが最も短いものであったと思います。しかし最近では4mmの針が登場しており、この短い針でジーパンの上から打つとインスリンは皮下に到達しないのではないかと危惧されるので、現在は衣服の上から注射するのは避けたほうがいいと思います。当然、衣服の上から注射すると血液のシミがついてしまうことがあります。
注射針を変えずにインスリンのペンに留置したままにしておいた時の問題点として、まずは針の閉塞の可能性があります。注射前に必ず試し打ちをして、インスリンが出ることを確かめてから打つ必要があります。注射後に血液が針先に付着することが閉塞の原因の一つとして挙げられるため、注射後も1単位でいいのでフラッシュをしておくことが必要です。もう一つは針を留置したままで放っておくと、温度変化があった場合にペン内部の空気圧が変動し、針からインスリンが大量に出てしまう、もしくは空気がシリンジに入り込んでしまうような状況になります。非常にもったいないので、できる限り温度変化のないようなところに置いておく必要があります。
針を置いたままにしておくと雑菌汚染の危険性がどうしても増えてくるのですが、インスリン製剤には防腐剤としてクレゾールが含まれています。また血液が混入した場合、血液中のヘモグロビンが沈殿物を形成し針つまりの原因になりえます (吉原他:糖尿病 59:179~187,2016)。因みに、クレゾールの防腐剤としての効果は室温で最も有効となるため、インスリン製剤の保管場所は使用前は冷蔵庫、使用開始後は室温となります。
適切なインスリン注射方法が好ましいことは間違いないですが、1型糖尿病の場合、一日に食事の時以外にも補正インスリン注射をすることで血糖コントロールの安定をもたらすことが知られており、毎回、注射針を変えて、アルコール消毒をして注射しないといけないとなると、めんどうに思い、注射回数が減ってしまう恐れがあることも事実です。
そしてもう一つ重要なことは、震災の時です。インスリンのペンはあるのに、針がなくなったから、アルコールがないから、という理由でインスリンを打たず、その結果血糖が急上昇し、救急受診しないといけなくなったという話をちらほら耳にします。震災の時のためにも、インスリンさえあれば針はリユースして消毒なしで注射することは可能だということを知っておいておいたほうがいいと思います。

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